政府が2019年6月18日に決定した「認知症施策推進大綱」は、2025年までの認知症施策の指針になるものであり、認知症とともに生きている私たち本人が、今後をいかに暮らしていけるかに関わる重要なものです。
この大綱が示された今、私たち本人からみて、大綱のどの点が大切であり、今後の認知症施策の展開に期待したい点は何か、そしてこれから先、私たち自身も含め、国や自治体はもとよりすべて人たちが、大綱を活かしながらどのように取り組んでいくことがよりよい地域社会をつくっていくために望ましいのか、その期待と展望を、JDWGの本人の声を集めてまとめました。
私たち本人が大綱を読み、自分なりに考え、意見を述べ、話し合い、まとめあげるには時間がかかります。今後、声を寄せる本人の意見をさらに反映し、「期待と展望」の内容を更新していく可能性があります。
「認知症施策推進大綱」 についてはこちらをご覧ください(厚生労働省ホームページ)
認知症施策推進大綱の今後の展開への期待と展望
(2019年8月)
~認知症とともに生きる私たち本人が考える大綱の4つの焦点~
1.何を目指すのか: 「希望をもって日々を暮らせる社会」を合言葉に、力を結集しよう |
2.「共生」を主軸に: 「共生」を我が事として、私たち本人と一緒に実現していこう |
3.本人発信の支援に注力を: 本人が声を発する機会を作り、声を全ての取組の出発点にしよう |
4.全自治体が取組の着実な推進を: 企画・実施・進捗確認を本人とともに進め、どこで暮らしていても、あたりまえに暮らせる地域に |
1.「希望をもって日々を暮らせる社会」を合言葉に、力を結集しよう
大綱で「認知症になっても希望をもって日常生活を過ごせる社会を目指す」と明記された点がとても重要。
①私たち本人が、認知症とともに前向きに生きていくためには、日々の中で希望が不可欠です。
医療や介護、家族や地域の様々な支援が増えたとしても、私たち本人が希望を持てなければ、生きる力が湧かず、自分らしい人生を全うすることができません。
②たくさんの取組があっても方向性がバラバラな現状を変えていくことが、切実に必要
これまでそれぞれの自治体や地域で、様々な施策や取組が実施されてきていますが、「認知症になってからも希望をもって暮らせる」という大切な方向性が明確に掲げられてこなかったため、多様な関係者がいても絶望的な見方のままだったり、バラバラな方向に動いていて、そのことが私たち本人の不安や混乱を強めてしまうことがしばしば起きています。
③認知症になっても希望を持って暮らす:認知症の人が増える社会の大切な方向性
各自治体そして地域のすべての人が、認知症になってからも絶望ではなく「希望を持って暮らす」」方向性を共有できると、将来不安が減り、お互いがよりよく暮らしていくために知恵や力を結集できます。認知症の人が増えても本人一人ひとり、そして社会全体の活力が高まっていくはずです。
④「希望」を合言葉にしながら取組みを進め、希望を日々の中で
まだまだ絶望的な見方が圧倒的に根強いのが現状です。今後、どこで暮らしていても「希望をもって日々を過ごせる」ことが現実のものになるために、国、そしてすべての自治体・人々が、大綱で掲げられたこの方向性を常に見失わずに、それを合言葉にしながら、あらゆる施策や事業を進めていくことを期待しています。
⑤「認知症とともに生きる希望宣言」を活かして、すべてのまちでも希望のリレーを
私たち認知症の本人が声を寄せ合い、よりよく生きていくために表明した「認知症とともに生きる希望宣言」が大綱に掲げられ、各自治体等での普及が施策内容として盛り込まれたことはとても重要です。一人でも多くの本人、そして地域の人たち、様々な職域の人たちに「希望宣言」を伝え、希望を語り合い、その実際を一緒に創り出していくこと(希望のリレー)に力を入れていくことを、強く期待しています。
2.「共生」を我が事として私たち本人と一緒に実現していこう
基本的考え方として、「共生」が第一に掲げられたことが重要。認知症があってもなくても「共生」を。
①共生が主軸:共生を生み出す中で、結果として健やかに
認知症があってもなくても、生きていく上で共生が重要であり、それなくしては誰もが安心して健やかに暮らし続けることはできません。共生に向けて取組む中で、結果として心身共に元気になりいい状態が保たれるのであり、各自治体が施策として共生にこそ焦点をあてることが強く望まれます。
②認知症とともに生きる:まずは我が事として
大綱では、共生には2つの意味があるとされました。一つ目の意味である「認知症になっても、尊厳と希望をもって認知症とともに生きる」という点を素通りせずに、これからを生きるすべての人が我が事として考えてみることが肝心です。すべての世代、すべての領域の人が「我が事として考え、語り合う」機会を、講座や研修、話し合いなど様々な場面で繰り返し作っていくことが必要です。
そのことを通じて、2つ目の意味である「認知症があってもなくても同じ社会で共に生きる」ことの実現に近づくはずです。
③水平の関係で、真の共生を:すべての自治体で、地元ことばで語る本人大使を
「共生」が漠然とした理念で留まったり、「本人は、支えられる一方の存在」といった従来的なの考えにたった表面的な共生になってしまいがちです。
それを避けるためには、「実際、こんな風に希望をもって地域で共に生きていけるよ」という実例を、本人自らがリアルに伝えていくことが効果的です。
大綱で創設が示された「認知症本人大使(仮称)」になりえる人が、どの地域にもいるはずです。すべての自治体で本人大使が誕生し、地元ことばで地元での共生のあり方を語り合い、それぞれの地ならではの共生を具体的に生み出していくことが望まれます。
④「本人ガイド」、「本人ミーティング」を活かして、共生に向けた一歩一歩を
また、大綱で普及が明記された「本人ガイド」、「本人ミーティング」を、地域や病院、介護事業所等で活かしていくことが、身近な地域でそこで暮らす人たちの共生を生み出していくきっかけになります。それらを自治体や医療や介護・福祉、法律等の関係者等が積極的に活かしていってほしいです。
⑤社会参加活動の支援が重要な鍵
共生を具体的に実現していくためには、私たち本人が地域社会の中で楽しく生き生きと活動するチャンスを増やしていくことが大きな鍵になります。大綱で「社会参加支援」が新たに盛り込まれ、各自治体が、数ある事業の中でもこの「社会活動支援」に焦点をあて、積極的に推進していくことを期待しています。
⑥「予防」の取組は、細心の注意と配慮を:認知症に備えることが重要
「共生」とともに「予防」が掲げられましたが、予防は、認知症に備える、なってからも進行を緩やかにしていい状態を保つことがねらいであり、認知症になってない人もなった人も、希望をもって共によりよく生きる(共生)ための手段です。予防が、人々に認知症への不安やストレス、偏見や生きづらさを強めたり、認知症への備えを遅らせ地域でのより良い暮らしにつながらない逆効果の取組に陥らないよう、自治体等が予防の取組を進める場合は、ねらいや位置づけ、成果を熟慮して、慎重に取組むことを望みます。
3.本人が声を発する機会を作り、声を全ての取組の出発点にしよう
大綱の1番目の柱に、本人発信支援が新たに盛り込まれたことは共生社会実現に向けた重要な一歩です。
①「本人視点の重視」「本人の意見に基づく」をすべての施策、取組で
大綱の基本的考え方で「施策は全て認知症の人の視点にたって、認知症の人やその家族の意見を踏まえて推進することを基本とする」と示され、啓発はもとより、医療・ケア・介護サービスも、バリアフリーの地域づくりも、チームオレンジの整備、成年後見制度の利用促進、商品・サービスの開発など、全てにおいて「本人視点の重視」、「本人意見に基づくこと」が明示されている点は、極めて重要です。
②「本人の声を聞く」ことが「本人視点にたつ」ために不可欠:すべての本人が声を発するチャンスを
認知症が軽度のころはもちろん、進行してからも一人ひとり本人は自分なりの思いや願いがあります。本人視点や本人意見の重視を掲げるだけでおしまいにしたり、本人の声を聞くことをはじめから無理と決めつけずに、本人が感じていること・必要なことを、本人一人ひとりが声や声に代わる何らかの表現で発することができるように、本人発信支援にこそ注力してほしいです。
③「声をきこうとしない」現実の解消を:自治体が、本人発信支援に本格的にとりくむべき
現実には、「認知症だから話せない」「聞いても無理」「家族に聞いているからいい」とみなされ、声をあげることができない人、声をあげているにもかかわらず聞き流されている人、聴いてくれる人がいないために声を発信するのを諦めている人たちが無数にいます。
施策や取組の関係者、とりわけ自治体において、今後、本人発信支援を取組の重点において積極的に推進していくことを期待しています。
4.企画・実施・進捗確認を本人とともに進め、どこで暮らしていても、あたりまえに暮らせる地域に
大綱は、3年を目途に進捗確認することとされており、全自治体での進捗確認が重要です。
①すべての自治体が、認知症施策の着実な推進を
実際には自治体によって認知症施策にかなりの違いが生じています。どこで暮らしていても、認知症とともに希望を持って暮らせるようになるよう、大綱をもとにすべての自治体において、年々着実に施策が進捗していくことを多いに期待しています。
②カタチや数を増やすことを焦らずに実質をよりよく:本人とともに企画・実施・進捗状況を
支援のしくみ(カタチ)や数が増えても、私たちの暮らしがよりよくなることにつながっていない現状も見られます。自治体は、大綱に示された施策のカタチや数を増やすことを焦らずに、大綱で目指す方向性をしっかりと見据えて、各自治体で何があったらいいか、企画や実施段階から本人の意見を聴き、進捗確認も本人からみてどうか本人と共に評価し、各自治体ならではの実質を築いていくことを望んでいます。
③人としてあたり前のこと(権利)が守られる共生社会に向けて:認知症の本人だからできることを活かして
私たちが望むのは、だいそれたことではなく、人としてあたり前に生きていくことです。
大綱をもとに、人としてあたり前のこと(権利)が守られる共生社会が、一日も早く実現することを切に願っています。
実現に向けて私たちも、「認知症の本人だからできること」を大切にしながら、力を尽くしていきます。